ダイ・バーノンのTwisting the Acesは、シンプルな道具立てと現象の小品トリックとして、マジシャンならば誰もが知る古典トリックとなっています。
クラシックと見なされるほど多くのマジシャンに受け入れられ広く演じられたトリックは、マジシャン達の改案欲求を刺激するのが常です。
Twisting the Acesも例外ではありません。原案が生まれた直後から現代に至るまで、多くの改案が作られ続けています。
多くの改案作品の中でも最も有名なもののひとつで、それ自体もまたクラシックの仲間入りをして多くの改案を生む元となっているのが、Roger SmithのMaxi-Twistです。
原案のTwisting the Acesとともに「カードマジック事典」に掲載されている作品です。
ロジャー・スミスの”Maxi Twist”
では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
プロットとしては、原案と同系のツイスト(リバース)現象に、意表を突くようなエンドを付け加えたものです。ダブルクライマックスやDelayed Climaxなど、60~70年代頃の奇術界の流行を反映しているようにも思えます。
原案であるTwisting the Acesは4枚のエースが順に表返るのを見せておしまい、という構成です。そのため、中には終わり方が物足りないと感じる人も居ます。そういった向きには、Maxi-Twistの意外性はまさにうってつけではないでしょうか。
ただし、現象を増やした分、ハンドリングは原案に比べるとやはり複雑になっています。ディレイド・クライマックスの宿命でもあります。
一般に古典作品にクライマックスを付加した改案の中には、なぜそうなるの?と問いたくなるような、論理的必然性の無いものも多いです。観客をただ驚かせるだけの意外性ではなく、何らかの形で納得させる理屈が無いと、観客はモヤモヤした思いのまま終わることになります。
その点でMaxi Twistは、「確かに4枚です」というセリフと、A~4が出現するというオチが、破たんなく纏まっていると思います。
メインの現象は原案と同じツイストですが、厳密には少し異なります。
Twisting the Acesでは1回に1枚ずつ表向く現象が4回繰り返される形です。直前に表向いていたエースは、現象の中で自動的に裏向きに戻る箇所もあれば、演者がさりげなく元に戻す箇所もあります。この部分は、あえて現象としては不明瞭にされているところです。
なので、そのあたりをしっかり意識して演じないと、観客にとっては現象が分かりにくくなる恐れもあります。
それに対してMaxi-Twistでは表向きパケットの中に裏向きカードが1枚、2枚、3枚と増えてゆく構成です。
現象として不明瞭な要素は無く、表向きのエースがどんどん少なくなるのが目に飛び込んでくるので、原案よりも視覚的と言えるかも知れません。ちなみにこの作品より後に出たLee AsherのAsher Twistなどは、この視覚性をさらに進化させた作品です。
Twisting the Acesはどちらかと言えば、観客の目よりも頭で理解してもらう奇術で、1回ずつの現象をしっかりと納得させる必要があると言えましょう。
それに比べてMaxi-Twistは視覚に訴えるため、さらりと流すように、比較的スピーディーに演じればよい気がします。先に述べたハンドリングの複雑さの問題も、それによってある程度カバーできるでしょうか。
ロジャー・スミスの”Maxi Twist”を解説した文献等
この作品はRoger Smith編「Innovative Magic No. 2」(1976)に掲載されました。
映像ではBill maloneの「On the Loose Vol.3」に、氏の演出が収録されています。
日本語では冒頭に述べたように、東京堂出版の「カードマジック事典」に「ひっくり返るA(2)」と題して解説されています。
いつも拝見しております^^
こういった良いマジックの素晴らしい模範演技が見られることはとても貴重だと思います!
正直、本を読んでも忘れてしまったなんていうマジックがとても多いので、
動画を見るたびにモチベーションが上がっています(笑)
ありがとうございます。
自分の好みというバイアスはもちろんかかっていますが、古典と呼ばれる作品をなるべく網羅したいと思っています。
これを続けることが、自分自身のモチベーション維持にも役立つことに、最近気づきました^^
3枚目のエースがひっくり返る部分はShanlaさんの手順ですか?
アスカニオっぽい動きが目から鱗でした。
事典に解説されている手順と、カード移動手順自体の構成は同じです。
が、アスカニオっぽく見せるとは解説には書かれていないので、まあ一応私のハンドリングと言えなくもないかも知れません。
手順を読んでいて、トップの1枚の移動以外はアスカニオスプレッドの動きで同じ結果が得られると気づき、動画のようにしてみた次第です。
確か、岸本さんのマーベラスにも、似たような動きがあったと記憶しています。
今まで知らなかった名作のバックグラウンドと模範演技が見られるので大変嬉しいです。さっそく練習を始めました。
模範演技というより、自分なりに出来るだけ綺麗に見せようと心がけているだけですが、嬉しいお言葉です。
ありがとうございます。