アンビシャスカードはシンプル&ダイレクトの代名詞とも言えるプロットで、現代カードマジックの中でも最もポピュラーなマジックのひとつです。
通常のアンビシャスカードでは、基本的に一組のデック全部を使いますが、このアンビシャス現象(上昇現象)を数枚のパケットで行うという一群のマジックが、今回ご紹介のアンビシャス・クラシックです。
ちなみに通常のアンビシャスカードの中でも、3枚にカードを減らして行われるThin Ambitionという手順があります。これも元々のアイデアは独立した手順だったようですが、現在では一連のアンビシャスカード手順の一部として演じられることが多いものです。
それに対して、アンビシャス・クラシックは独立したパケットトリックとして(デックから数枚取り出して)演じられることがほとんどです。
アンビシャス・クラシックと名前の付くもの、付かないものなど、このプロットの派生に分類されるバリエーション作品はおびただしい数発表されています。4枚のフォア・オブ・ア・カインドや、A~5などの5枚のカードを用いて演じるものなどがあります。
今回ご紹介の手順はその中でも、このプロットを有名にした最初の作品である、ラリー・ジェニングスによるアンビシャス・クラシックです。
「有名にした」と書きましたのは、このプロット自体はラリー・ジェニングス以前にパーシ・ダイアコニス”Persi Diaconis”によって作られていたそうだからです。しかしこの手順が一般に知られるようになったのは、1973年の「Epilogue」誌で発表されてからのことです。
ラリー・ジェニングスの「アンビシャス・クラシック」
では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
普通のアンビシャスカードでは1枚のカードが何度も上がってくるパターンがほとんどです。それに対してアンビシャス・クラシックでは、パケットのカードを1枚ずつ順番に使って現象を見せてゆくので、4枚ないし5枚といった枚数のパケットを使う理由が明確になっています。
また、単に一番上に上がってくるというのを繰り返すだけではなく、ひっくり返ったり変化したりと、現象がバラエティに富んでいるのも楽しい点です。
また、アンビシャスカードと同じように、上に上がってくる現象を繰り返す箇所にしても、随所で観客の疑惑を打ち消すようなサトルティが散りばめられています。ダイ・バーノンをして、完璧な作品とまで言わしめた所以でしょう。
これら現象の豊富さや、疑惑解消のサトルティの多くは、言わばImpromptu DB Cardとでも言うべき原理に拠って達成されています。
DBがアンビシャス現象との親和性が良いというのは、あのダイ・バーノンによる”Trick Fooled Houdini”によって、遥か昔に実証されています。
アンビシャス・クラシックではExrta Cardの導入によって、言わば即席のDBを作っている形になります。これが手順前半の現象を豊かに、また見破りがたくしているわけです。
さらにそのままラストでは変化現象として用いられることによって、これが最終的に邪魔なカードとならず、むしろ積極的な材料として働いているところが素晴らしいところです。原理の可能性を全て利用し尽くした、まさに天才的な構成の妙だと思います。
ラリー・ジェニングス作品集「The Classic Magic of Larry Jennings」の記載によれば、この作品の”Ambitious Classic”という名称はジェニングスが自分で名づけたものではないそうです。アンダーグラウンドで演じられている頃、それを見たほかのマジシャンが「これは”Ambitious Classic”だ」と呼び習わしたとのこと。
ラリー・ジェニングス以前にこの手順の萌芽があったとは言え、アンビシャスカードそのものが19世紀にまで起源をたどれることを思えば、このパケット・トリックをことさらに”Classic”の冠を付けて呼ぶ理由はないかも知れません。
しかしすでに上に書いたような、完成された構成の妙をして、多くのマジシャンから賞賛を込めて、クラシックと呼ばれたのだということでしょう。
ラリー・ジェニングスの「アンビシャス・クラシック」を解説した文献等
この作品はすでに書きましたように、1973年の「Epilogue」Special No.3誌上で発表されました。「Epilogue」誌は後に合本として販売されていますので、そちらにも収録されています。
また、1986年発行の、Mike Maxwell著によるラリー・ジェニングス個人作品集「The Classic Magic of Larry Jennings」にも収録されています。
映像では、L&L Publishingから出ている「Classic Magic – Larry Jennings」DVDに解説があります。
また、同じL&L Publishingから、多くのマジシャンによるアンビシャス・クラシック・プロットのバリエーション作品を集めたDVD、その名も「アンビシャス・クラシック」が出ており、これにラリー・ジェニングスの手順も収録されています。これに入っているジェニングスの映像は上の「Classic Magic – Larry Jennings」と同じです。
その他、マイケル・アマーによる「Easy to Master Card Miracles 6」でも取り上げられています。
日本語でジェニングス手順をそのまま解説した文献は知りませんが、荒木一郎氏の「舶来カード奇術あ・ら・カルト」に収録されている「サーカス・ファミリー」が近い手順です。これはこの手順によく合った演出も含めて解説してあるので参考になります。
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