今や世界的マジシャンの中でも代表的なパフォーマー、レクチャラーのひとりである、Magician’s Magician、ダロー・イーストンの若い頃のカードマジック作品です。
初来日した頃ですから、まだ20代の頃の作品です。
(※ダロー氏は、昔は本名のDaryl Martinezをマジシャン名としても使用されていましたが、近年Daryl Eastonに改名されたそうです。)
その名の通り、エド・マーローの“Penetration”の流れを汲む、エレベーター・カードのプロットの奇術です。
直接的には、”Penetration”のバリエーションである、ビル・サイモンのエレベーター・カードのバリエーションということになるでしょう。
題名のエレベーター・リペアーとは、「エレベーターの修理屋さん」という意味です。
この作品では修理屋さんに見立てた1枚のイレギュラーなカードが登場します。
そして、この1枚を軸にして面白くストーリーが流れてゆき、最後には豪華なクライマックスが待っています。
このどんでん返しというか、クライマックスのたたみかける感じは、ダローの作風のひとつの要素でもあると思います。
ダローの「エレベーター・リペアー」
動画にしてありますので、よろしければご覧ください。
第一段ではそれぞれ2回ずつ上下移動を見せてから、第二段で3枚とも同時に上げる、という手順構成は、ビル・サイモンのエレベーターカードと同様のものです。
が、この作品では途中で「エレベーターの修理屋さん」という要素が入っています。
これがちょっとしたバイプレイのような、軽いサッカートリック的演出となっており、そのまま最後の落ちに対する意味付けにもなっているのが秀逸です。
この落ちを導入するために、途中のハンドリングは、ビル・サイモン手順よりは幾分煩雑なものとなっています。
しかし、このように洒落ていて、ストーリーをまとめ上げるような、豪華なオチに対するトレードオフとしては、この煩雑さも個人的には十分許容できると思います。
あと、冒頭の3枚のレイアウト部分の改めについてですが、この動画演技はおおむねダローによる原案の解説通りです。
結構、このように細かくテクニカルな改めを、自然に出来る範囲で入れてくるのも、ダローの持ち味のひとつかな、と思いました。
ダローの「エレベーター・リペアー」を解説した文献等
この作品は高木重朗著「だろーのカード奇術」に解説されています。
日本語レクチャーノートだけでなく、原典となる英語文献もあるだろうと思って調べてみましたが、ちょっと分かりませんでした。
ダローの初期代表作を集めた作品集として、「Secrets of a “Puerto Rican Gambler”」というレクチャーノートが出ていますが、これには”Elevator Repair”は収録されていないようです。
「だろーのカード奇術」の収録作の中でも、以前当サイトで紹介した“The Puerto Rican Triumph”などは載っているので、同時期の作品だとは思うのですが。
(8月1日追記)
コメント欄にて、IWA様からこの作品の英語文献についての情報を頂きました。
ポール・ハリスによって刊行された「Close Up Fantasies Book Two」に掲載されているとのことです。
なおポール・ハリスの過去の出版物をまとめた合本「Art of Astonishment」シリーズには、”Elevator Repair”は収録されていませんでした。
いつも楽しく拝見させていただいてます。
ダローの「エレベーター・リペアーはポール・ハリスの作品集「Close-up Fantasies BookⅡ」のP97に記載されています。1985年の刊行です。ダローの作品としての掲載です。後の合本に再掲載されているかは私も確認しておりません。
>IWAさん
コメントありがとうございます。
貴重なご指摘感謝します。
なるほど、ポール・ハリスによって発表されていたのですね。ハリスの合本「Art of Astonishment」のVol.2には、その冊子自体は「Close-up Fantasies 1&2」として収録されていました。
しかし原典の1と2で発表された全ての作品ではなく、抜粋して紹介しているようですね。”Daryl’s Elevator Repair”は見当たりませんでした。