パースフレームとは、がま口財布の、口金だけの部品のことです。
袋の部分が無い部品ですから、もちろん財布としての機能はありませんが、その見た目の面白さとナンセンスな感じから、マジックではよく使われます。
そもそもがま口財布自体、最近では使う人も少ないですから、その口金といってもなかなか日常では見ないかも知れませんね。
マジックでパースフレームを使う場合はもちろん、袋が無い状態にも関わらず、口金を開けると中から物が出てくるという現象で使われます。
やはり財布というイメージから、コインマジックで使われることが多いですが、それ以外にスポンジボール等でも使われますね。
このあたりは、アメリカのクロースアップマジックの達人、アルバート・ゴッシュマンの影響によるところが大でしょう。
彼の十八番である「塩と胡椒の瓶」では、パースフレームから大小のコインが出たり、スポンジボールその他が出たりと、変幻自在の演技が繰り広げられました。
テンヨーから売られている「スーパースポンジボール」のセットにも、パースフレームが付属していますね。
そんな感じで、クロースアップマジックとの関係が深いパースフレームという素材ですが、これをシンプルな形で使った手順はということで探してみると、意外と発表された作品は少ない印象もあります。
ゴッシュマンの演技は有名ですが、あまりにバリエーションに富んで変幻自在すぎて、手順としてシンプルに切り取ることが難しいです。
そんな中で、現代コインマジックの第一人者であるデビッド・ロスの作品の中から、とくにコインとパースフレームのみの道具立てで、シンプルにまとまった作品「奇妙な小銭入れ」”Acentric Purse”を紹介してみます。
リチャード・カウフマン著「COINMAGIC」(邦題:世界のコインマジック)掲載作品です。
デビッド・ロスの「奇妙な小銭入れ」
動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
デビッド・ロスのパースフレームを使用する作品といえば、大作のひとつポータブル・ホールが特に有名です。
あちらの作品は、パースフレームと「穴」を連携させながら、比較的複雑な現象を見せてゆくマジックです。
それに対してこの「奇妙な小銭入れ」は、パースフレームとコインさえあればすぐに出来る、シンプルな手順です。
とくにマットの有無もそれほど問わず、立っていても座っていても演じられるのも便利なところです。
さらに、パースフレームから4枚のコインを”出す”だけの手順なので、コインマジックルーティンの中のオープナーとして、4枚のコインを使う他のコインマジックに容易に繋げることが出来ます。
普通のコインズアクロスやスルー・ザ・テーブルに繋げてもいいですし、パースフレームを一旦ポケットにしまう動作を絡めれば、エキストラやSなどをスチールすることも容易ですから、自由度は高いですね。
ただ、この手順はどちらかといえば、多少難しい部類かと思います。
ハンギング・コインと同様の技法を使うのですが、全体的には、普通のハンギングコインよりは「奇妙な小銭入れ」のほうが少々難しいような感覚です。
演技の角度的な問題については、同じ技法を使いますから、ハンギング・コインと同様かと思います。
「奇妙な小銭入れ」作品の名称について
「COINMAGIC」では、題名が”Acentric Purse”となっています。
“Acentric”というのは聞きなれない単語ですが、調べてみたところ、「動原が無い」「中心が無い」というような意味らしいです。
日本語訳を聞いても、何だかよく分からない言葉ですが、ここでは財布の袋・中身が無い、という意味合いを示しているのでしょうか。
しかし、訳本である「世界のコインマジック」では、日本語の題名として「奇妙な小銭入れ」と訳されています。
“Acentric”が「奇妙な」という意味であるという情報は見つかりませんでした。
中身が無い財布だから奇妙だ、という単なる意訳でしょうか。
ひとつ連想したのは、語感が似ている”Eccentric”という単語です。
この単語であれば、まさにそのまま「奇妙な」という意味で間違いはありません。
「奇妙な小銭入れ」という和訳は、”Acentric”が”Eccentric”の誤記であるとの判断によるものなのでしょうか。
分かりませんが、そんな感じがいたします。
デビッド・ロスの「奇妙な小銭入れ」を解説した文献等
この作品は、リチャード・カウフマン著「COINMAGIC」に掲載されました。
日本語では、この本を邦訳した本の1冊である、「世界のコインマジック」(2ではない方)に収録されています。
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