ジェフリー・ラタ”Geoffrey Latta”は若い頃に、カウフマンの「COINMAGIC」に作品提供したことで有名です。ニューヨークのマジックシーンでは有名な名手でしたが、あまり人前に姿をあらわすことがなく、伝説的なイメージさえあった人です。
近年はコインマジックシンポジウムの主要メンバーとして活躍したり、来日レクチャーも行ったりして、その伝説的なベールは解かれてきていたのですが、惜しむらくも2008年に50代の若さで亡くなりました。
COINMAGICやコインシンポジウムのイメージから、ラタはやはり第一にはコインマンという位置づけかと思います。
しかしカードマジックの分野でも多くの作品を発表しており、一時はクラシックパスの名手としても知られていた人でした。
彼のコインマジックは、技巧もギミックも総動員して、巧妙な構成でプロットを組み立ててゆくような作風のものが多いです。
そして多くの作品は非常にマニアックに凝ったものです。
カードマジック作品でもその傾向は多分にあります。
今回ご紹介の”Stratosphere Aces”も、そんな彼の作風の特徴が横溢した、なかなかこだわりのある手順です。
ちなみに”Stratosphere”とは「成層圏」という意味です。
地球大気の超高空にある層の名称ですね。
まあ奇術の名称なんてものは結構適当に付けられるものですから、そう深い意味は無いでしょう。
「飛行するエース」の超進化版、といったようなイメージでしょうか。
ジェフリー・ラタの「Stratosphere Aces」
まずはよろしければ、動画をご覧ください。今回は当サイトの動画では初めて、喋りを入れてみましたので、びっくりしないでください(笑
一見、一般的なスローモーション・4エーセスに似ていますが、リーダーの山には余分なカードを配らない点が特徴です。
リーダーカードは最初は1枚のみの状態から始まるため、1回の飛行ごとに枚数が増加してゆくこととなります。
この点は、オープン・トラベラーと同様です。
それぞれのエースを消失させる箇所について、ノートの解説文では、必ずしもテント・バニッシュのような動きを想定してはいないように思えました。しかし、ここはオープン・トラベラーに近い表現とするため、自分の好みに合わせてこのような形にしてみました。
テント・バニッシュ以外の部分は、出来るだけ解説文に忠実に演じてみたつもりですが、何と言うか結構荒削りとも思える要素も多いですね。
とくに、最初の子のパケットを拾い上げて、それを使ってリーダーのAをすくい上げ、その後子のパケットは元の位置に戻し、リーダーのAを置いた後にまた子のパケットを拾い上げる・・・という部分が何とも。
後段の、リーダーパケットが2枚以上になる部分はともかく、最初の1枚の状態でこの動きは、少し心地が悪い感じはあります。
それと、3回の移動が基本的に全て同じ方法論である、という点も若干気にはなります。
しかしこれについては、マニア的な視点のせいかも知れません。実演してみればとくに気にならない可能性はありそうです。
とは言うものの、ギャフカードも駆使してこのようなプロットを実現する、という創作意図は大変に魅力的なものです。
意図だけでなく、手法的にもdeceptiveで良いものだとも思っています。
ただ最初の1回だけが気になるんですよね。ここを何か別の方法論で達成すれば、2回目と3回目がこのままでも気にならないでしょう。
すぐには難しそうですが、創作意欲を刺激するテーマです。
しかしまあ、一般客相手にこの手順とオープン・トラベラーのどちらを演じるか?と問われれば、やっぱりオープン・トラベラーを選んでしまいますね~
確かに”Stratosphere Aces”では、移動する直前まで子のパケットにエースが見えており、次の瞬間には完全に消える、という良さはあるのですが。
それを勘案しても、やっぱりオープン・トラベラーのミニマリズムのほうが、私の中では上回る感覚です。
「Stratosphere Aces」の分類的位置づけ
この記事の副題として、「ジェフリー・ラタによるエース・アセンブリの複合プロット」と書きましたとおり、この作品にはエース・アセンブリの複数の主要プロットが組み合わされています。
まず、エースが1枚ずつ移動する現象を見せるのは、スローモーション・4エーセスのプロットです。
しかし、エースが1枚ずつ文字通り空中で”消失”して、リーダーのパケットに物理的に”出現”するというプロットはオープン・トラベラーのものと言えます。
オープン・トラベラー自体も、スローモーション・4エーセスのプロットを包含するものですから。
消失と出現プロセスの表現はオープン・トラベラーのそれですが、子のパケットだけにそれぞれ3枚ずつ配り、リーダーには何も配らないという構成は、エドワード・マーローの”Real Gone Aces”のプロットです。
“Real Gone Aces”は普通のスローモーション・4エーセスとオープン・トラベラーの間に位置するバージョンで、”Stratosphere Aces”もその形を踏襲しているものです。
つまり、枚数構成の点で”Real Gone Aces”と同類ではあるが、表現の点でオープン・トラベラーに近づいた作品、とでも言うべきでしょう。
それともうひとつ指摘しなくてはいけない点は、ギャフカードの使用です。
使用カードの種類から言えばマクドナルド・エーセスと同様ですが、その使い方はちょっと独特ですね。
まとめると、”Stratosphere Aces”は、”Real Gone Aces”に”Mcdonald’s Aces”の方法論を援用しつつ、”Open Traveler”のプレゼンテーションを取り入れた作品、ということになりますね。
系譜を分解するとなかなか複雑に思えますが、こうやってプロットを分解・分析して考察すると、創作上の発想の助けになると思います。
例えば部分的に別のプロットと入れ替えたり、さらに他のプロットを組み合わせたりなど、ある種のパズルのようなものですね。
まあ、それを具体的な形にするのは、それはそれで別の難しさがありますが。
「Stratosphere Aces」掲載の文献等
この作品は彼のレクチャーノート「Geoffrey Latta on Cards ans Coins」に掲載されています。
このノートは1980年代初頭に刊行されて以来、長く絶版でした。
10数年前、わたしがジェフリー・ラタに最も傾倒していた頃は、このノートは入手困難で、再販を待ち望んでいたものです。
以前のサイトでエース・アセンブリの記事を書いたときは、私は間接資料に当たって概略を知っただけで、”Stratosphere Aces”の詳細は分かりませんでした。
その後2004年に彼の初来日レクチャーが企画されることとなりました。
レクチャーのために新たなレクチャーノートが書き下ろされたのですが、これを機に絶版になっていた「Geoffrey Latta on Cards ans Coins」のほうも再版されたのです。
日本語版はマジックハウスから刊行され、長く追い求めたこのノートの内容に、私は初めて触れることが出来たのでした。
確かにパケットでリーダーのAをすくい上げる動作は変ですね・・
おそらくリーダーのAが最初から1枚だというのを強調したいがために
こういう手順になったと思うのですが・・それなら”Real Gone Aces”の方が
いい様な?せっかくギャフを使っているのに上手く処理できてない様な?
私も管理人さんと同じで、創作の意味では素晴らしい作品だとは思うけれど
現象としては物足りない・・ちょっと評価がむずかしい作品ですね。
現象も面白いんですけど、手順としての詰めが若干足りない、みたいな印象でしょうか。
同じコンセプトの手順では、Mike Powersの”Impossible Travelers”のほうが、どちらかと言えば完成度が高い感じがします。
以下のサイトに動画があります。
http://www.mallofmagic.com/videos.htm
これは確かLattaの手順に触発されて作られた手順ということだったかな・・・
拝見しました。1枚目の移動手順はこっちの方がいいですね。
オープン・トラベラーもそうですが、やはり1枚目はダイレクトに飛んだ方が
見た目のインパクトも強いし、その後の流れも締る気が致します。
このプロットはリーダーのAの最初の状態で好みが分かれそうですね。
逆に1枚目以外はラタのほうが少し良いような気もしますね。
ということは、そのへんを合わせれば、自分なりにしっくりと来る手順が出来る可能性もあるかも・・?
確かにおっしゃる通り、オープントラベラー系統のプロットでは1枚目の移動が最大の見せ場ですね。
これまで何度も演じた経験から、この箇所での観客の歓声が一番大きい気がします。