エース・アセンブリーのような壮大な手順、リセットやオイル・アンド・ウォーターみたいな凝ったマジック、どれも楽しいものです。
しかしときには、もう少し軽く短時間で終わるような、演者にとっても観客にとっても負担の少ないマジックのほうが良いという場合もあります。いや、「時には」というよりもむしろ、こっちの需要のほうがアマチュアマジシャンならば多いでしょうか。
料理で例えるならば、オードブルやコース料理ばかりでは腹にもたれる、飽きる。たまにはサンドイッチとかおにぎりぐらいで済ませたい。そんな関係に似ています。
ラリー・ジェニングスの「小さな奇跡」は、その名のとおりとても小さなトリックです。
ちょっと何か見せて?みたいな状況で軽くササッと見せて終わるのに適した、スマートな作品だと思います。
この作品はジェニングスのお気に入りで、来日時のレクチャーでも好評であったようです。またテレビでの彼の演技の中でも、このマジックを演じているのを何度か見たことがあります。
ラリー・ジェニングスの「小さな奇跡」
では、動画をアップしてありますので、よろしければこちらをご覧ください。
現象としては2回の変化だけのシンプルなマジックです。
私の思うところの、この作品の魅力を述べてみます。
2回の変化が2回とも、いわば観客の意識の外で起こるということが挙げられます。
まず最初の変化ですが、これからマジックをはじめる前の、前置きのしゃべりの中で、いきなり現象が起こるイメージがあります。
いわば落語の枕の最中に、いきなりネタを披露するようなものでしょうか。
観客の意識をコントロールする概念のひとつとして、オフビートというものがあります。
これは簡単に言えば、マジックの演技自体から観客の意識がそれた時間のことです。別の言い方をすれば、今は演技時間中ではない、と観客が無意識に認識している状態です。
通常オフビートといえば、マジックの現象が起こった後のエアポケットのような瞬間のことを指すように思いますが、「小さな奇跡」の1回目の変化も、タイミングとしてはオフビートに似ていると思います。
さらに、2回目の変化について。
これはまさに典型的なオフビートでしょう。もうマジックが終わったと思った瞬間、次の変化が起こる。
さらに言うならば、この作品の最大の魅力は、上記で力説したようなオフビート的な感覚を、観客自身が体験することでしょう。もちろん、オフビートなどという言葉は出てきませんが。
これからマジックが始まるのね。何するんだろ?うんうん、それで?
と油断しているところに、いきなり現象が起こる。というより、すでに起こっていたことが示される。
そして、これで終わりなのか~、と油断したところに、またまた2弾目の変化が示される。
この、実際の現象と観客の注意の微妙なズレの連続こそ、このマジックの特異な魅力のように思えます。
まあ、私の演技動画がそういった魅力を十分再現できているかどうかは心もとないですが、少なくとも目指すイメージはそういうものでしょう。
「小さな奇跡」を解説した文献等
「小さな奇跡」は、加藤英夫著「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」に掲載されています。
始めてコメントさせていただきます。
僕はマジック始めたばっかりなのですが、はじめて覚えたのがこのマジックです。
感激しました。
そこで一つ質問させてください。
どこでマジックの修行をしましたか?
僕はマジックを半年しかやっていないのでアドバイスをいただけたら幸いです。
コメントありがとうございます。
初めて覚えたのがこれとは、ちょっと珍しい感じですね。
マジックをやったことがない状態からこれをやろうとすると、TCが難しくないですか?
私の場合マジックの修行というか練習は、基本的には本やビデオを買って家で練習です。
たまにマジックのサークルなどに参加して、人前で演技をするとか。
つまり、一般的で典型的なマジックマニアの姿ですね^^;
あと、修行というか普通に実践としてですが、数年間レストランでテーブルホッピングをやっていたこともあります。