マジシャンの失敗、というシチュエーションは意外と喜ばれます。
演者の人間性が表に出る瞬間だから、かも知れません。いわゆるコメディマジックのジャンルでも、形としてはマジシャンの失敗となっている演技はよく見られます。
今回ご紹介のダンバリー・デリュージョンは、カードマジックにおいてのサッカー・トリックの代表選手のようなマジックです。
全体はシンプルな1枚だけのカード当てなのですが、観客が見ていると、明らかにマジシャンが失敗したに違いないと思える状況になります。
しかしそれでも、最後にはきちんとカードは当たってしまいます。
チャーリー・ミラーはアメリカのマジシャンで、ダイ・バーノンや石田天海ら同時代の名手との親交も深かった人です。
若い頃はアマチュアで、その頃からカードマジックのエキスパートとして知られていました。とくにフォールス・ディールやフォールス・シャッフルなどのギャンブリング・テクニックの知識と技巧は抜きん出ていました。ヒューガードとブラウエの共著になる「Expert Card Technique」の内容のかなりの部分が、実際にはミラーの手になるものであるとされています。
チャーリー・ミラーは後年、プロマジシャンとなってからは、自分のレパートリーからカードマジックのほとんどを外してしまいました。
そんな彼の、カードマジックでの代表作は、となれば、若い頃に考案したダンバリー・デリュージョンが挙がりそうです。
チャーリー・ミラーのダンバリー・デリュージョン
では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
1枚のカードを当てるのですが、暗に”これは選ばれたカードではない”という態度で示された3枚のカードの中に、実際には客の選んだカードが含まれています。
そして、マジシャンはそのことに気づかない(ように見える)。
ここが、このマジックの最も面白いところで、手順の肝と言える部分でしょう。
完全な即席(準備無しのデック)で行える点も大きな魅力です。
ダンバリー・デリュージョンを元にしたいくつかの改案では、技術的に簡単にする、あるいはクライマックスを付け加えるなどの意図で、事前のセットアップが必要なものがあります。
それら改案も、そこまで大層なセットが必要というわけではありませんが、やっぱり原案のこのシンプルな構成には惹かれます。
個人的な感覚では、この作品にはロイヤル・フラッシュやフォア・オブ・ア・カインドの出現は不要に思えます。
この技法のメインの部分では、私の好きなあるギャンブル技法が使われています。実はこの要素こそが、私がこの手順が好きな最大の理由かも知れません。
ここではあまり種明かし的にしたくないので、あえて技法名は言いません。しかし、何と見事にこの技法を応用したのかと感心します。
はじめて「Expert Card Technique」でこの手順を読んだときの、アハ!体験は忘れられません。そうか、この技法はマジックではこのように使うものなのか!と。
しかしただひとつ、個人的にはこの手順に対して微細な違和感は存在します。
ラストの部分で、元々客のカードに違いないと思われたテーブル上のカードが、単に違うカードになって終わり、という部分です。
この部分は、若干ではありますが、しっくり来ない感じはあります。
多くの改案で、ここからフォア・オブ・ア・カインドなどが出てくるのも、そういった違和感の解消というアイデアなのでしょう。
しかし個人的には、これも何か違う気がする。そうなってしまうと、いかにも仕組まれた感が出てしまうのですよね。
(※追記:すみません、多くの改案でフォア・オブ・ア・カインドが出てくるというのは、客のカードがあると思われた3枚のカードからではなく、最後の枚数目を配ったカードのほうですね。誤解を招く書き方でした。)
何とか原案のImpromptuな味を保ちつつ、すとんと腑に落ちるような手順を作り出せたならば、自分の一番のペットトリックになりそうでもありますが・・
しかし原案の構成も十分に好きな自分も居ます。何よりも、”あの技法”を使う部分を崩したくないという勝手な嗜好も・・・。
こういった因循とも呼べるような面はありつつも、やっぱりこの手順をこれからも愛してゆくのかも知れません。
ダンバリー・デリュージョンの名称について
ダンバリー・デリュージョン”Danbury Delusion”の意味について、松田道弘氏の著書「トランプ・マジック・スペシャル」で少し触れられています。
それによれば、Delusionはごまかしの意味ですが、Danburyの意味が不明である、と述べられています。
調べてみると、コネチカット州にDanburyという地名があるようで、これのことかも知れません。
シカゴ・オープナーを始めとして、「地名+別の単語」という組み合わせのマジック名称はいくつか例があります。
チャーリー・ミラーがコネチカット州のダンバリーに関係があったかどうかは不明ですが、このへんの線が濃そうな気がします。
ダンバリー・デリュージョンを解説した文献等
この作品は元々、ヒューガードとブラウエ共著の「Expert Card Technique」に掲載されました。
日本語文献では、すでに挙げた松田道弘氏の遊びの冒険シリーズ「トランプ・マジック・スペシャル」に解説されています。
同様の現象を簡単に演じられるようにし、さらに追加クライマックスまで付けた作品として、デイブ・レイダーマンのデイブス・ディライトがあります。こちらのほうが一般には人気があり、演じられているのをよく見ます。この作品は、「カードマジック入門事典」に掲載されています。
例えばですが・・ ラリー・ジェニングスの「ファイナルタッチ」の様な終わり方は
どうでしょう?手順の変更はなく、演技だけで解決できると思いますが。
(ファイナルタッチは「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」にあります)
上の発言を訂正します。加藤英夫さんの Card Magic Library 第4巻に
この作品を演じる時の注意点が書かれてました。
チャーリー・ミラー本人に会った加藤さんのアドバイスが参考になります。
いつも貴重な情報のご教示、ありがとうございます。
本当に助かります。
Card Magic Libraryにこのマジックのヒントが載っているのですね。
この本は実は持ってないのですが、これは是非にも入手したいと思うようになりました。
1巻刊行からずっとタイムリーに購入していれば大丈夫だったでしょうけど、今から全巻まとめて、となると、予算的に二の足を踏んでしまい・・・
しかし本当に貴重な情報にあふれているのに間違いないのでしょう。
購入するとしたら、たぶん4巻からになりそうです。
私の好きな、この技法が特集されていますので^^
ヒントといっても数行の文で書かれているだけですので
過度の期待は持たれない方が良いかと・・(^-^;
でも例の技法が好きな人なら4巻は満足いく内容だと思いますね。
(余裕あれば全巻揃えても悪くないです、読み物としても楽しめます)