ポール・ハリスは最近ではどちらかというと、マジック商品やDVDのプロデュース業のほうがメインになっているようです。
しかし本人もクリエイターとしては非常に有名で、従来のマジックのプロットからかけ離れたような発想による傑作がいくつもあります。
クリエイターとしての方向性は、ジェイ・サンキーに近い感じもありますね。
ポール・ハリスが一躍世界的に有名となったのは、1977年の”Super Magic”の出版後でしょう。
松田道弘氏はこのときのことをよく、「彗星のように登場した」と表現されています。
“Super Magic”の目次を見ると、”Ultimate Rip-Off”、”Grasshopper”、”Las Vegas Split”など、現在でも演じられている傑作の数々が並びます。
その中でも今日最も有名な作品が、今回紹介するリセット”Re-set”でしょうか。
リセットの手順
動画を作成しましたので、まずはよろしければそちらをご覧ください。
作品名称の「リセット」の由来は、2段目のところでリセットボタンを押して元に戻るという部分ですね。
独創的すぎる作品が多いポール・ハリスにしては、リセットは比較的従来からのプロットから逸脱しない創作品のようにも感じられます。
しかしトランプに実はリセットボタンがあった、という奇妙な感覚こそが、この作品のポール・ハリスらしさではないでしょうか。
リセットの原案が発表されたのは1977年刊行の”Super Magic”ですが、動画の演技はその解説とは微妙に異なっています。
1996年にA-1 MultiMediaよりポール・ハリスの全集”Art of astonishment”全3巻が出版されており、この本は彼の過去の著作をほとんど(全てかも?)集めた大部の著です。
これの1巻に”Super Magic”が収録されているのですが、オリジナルそのままの内容ではなく、若干の加筆修正が加えられています。
約20年の年月を経た彼による追加アイデアや他のマジシャンによるバリエーションなどの解説もあり、充実した内容です。
少し話がそれましたが、上の動画はこの”Art of astonishment vol.1″収録の手順というわけです。
具体的には、Ascanio Spreadを使う見せ方や、2枚目の変化の方法などが”Super Magic”の手順とは異なっています。
が、大枠としては原案と呼んで差し支えない手順です。
リセットそのものは完全オリジナルではなく、前段階の作品があります。
ブラザー・ジョン・ハーマンの“Underground Transposition”という作品です。
そちらは前半部分はリセットと似た現象ですが、後半部ではフォロー・ザ・リーダーのような現象を見せるものとなっています。
そこをリセットボタンによって逆戻りする現象にしたのが、ポール・ハリスのアイデアということですね。
個人的にはどちらかというと、リセットのほうがスピーディーでスマートな印象を与えやすい感じはします。
まあフォロー・ザ・リーダーがあまり好きではないという好みによるバイアスがかかっているかも知れませんが^^;
リセットの流行
わたしがマジックを始めた頃は、リセットはそれほどメジャーな作品でもなかったように思います。
もちろん名作として誰もが知っている作品ではありましたけどね。
誰もが演じる、というほどでもなかった感じです。
それが最近では、アンビシャスカードやトライアンフなどに次いで、カードマジックに取り組み始めた人がごく初期の頃に演じたがる、メジャーなマジックのひとつになっている印象です。
この理由ですが、別に調査したわけでも何でもなく、独断的な印象に過ぎないのですが、佐藤喜義氏によるリセットのバリエーション「ステラ」の影響が大きいような気がします。
それも、佐藤氏自身による影響というよりは、弟子であるホー・カコーさんの演技が影響しているのではないでしょうか。
ホーさんがテレビでステラを演じた演技は反響が高く、今でもYoutubeに掲載されており人気の動画です。
このへんの影響から普通のリセットも演じる人が増えて、さらにそれをYoutubeにアップし、それを他の人がまた見て解析(メコピ)して自分のものにする・・・等々。
アンビシャスカードやトライアンフの流行は、間違いなく前田知洋氏やふじいあきら氏によるテレビでの演技が誘因でしょうけども、リセットにはそれは当てはまらないと思います。
いわばYoutubeやニコニコ動画などのネット動画が生んだ流行のマジックが、リセットなのではないでしょうか。
リセットに関する個人的なこと
わたしがリセットという作品を初めて知ったのは、松田道弘氏の著書「松田道弘のカードマジック」においてでした。
まだ自分の中ではElmsley Countさえもままならなかった頃のこと、たった8枚で表現される豊穣な奇術現象は衝撃でした。
ちなみに余談ですが、インターレースト・バニッシュを初めて知ったのも同じ書籍です。
リセットはインターレースト・バニッシュと、使用するカード構成が同じなので、連続して演じやすいです。
上記の本で松田氏もそのように演じると書かれていますし、ポール・ハリス自身も同じように演じることが多かったそうです。
この2つであれば、リセットのほうを先に演じるのが良さそうですね。
その後松田氏の手順を基本にしつつ、アール・ネルソンによるテレビ番組での演技や、アルフォンソの手順などを見ながらいろいろと自分なりのやり方を工夫したりしてきました。
マニアの仲間でも演じる人は多く、人に教えてもらったりもしました。
しかしリセットという奇術、有名な割には日本語でまともに解説した書籍ってあまりないのですよね。
上述の松田先生の本以外では、近年出た荒木一郎氏の「テクニカルなカードマジック講座2」ぐらいしかないのではないでしょうか。
DVDやレクチャーノートでは他にもあったとは思いますが。
ポール・ハリスの原案手順は、プロマジシャンの方などから見せてもらったことはありますが、最近まで解説書として読んだことはありませんでした。
しかしようやく最近、”Super Magic”を読む機会がありまして、原案を直接知ることが出来たわけです。
よく、リセット原案の冒頭のHartman Additionで4枚のAを示す部分が不自然だという意見を耳にしましたが、あらためて原案の解説を忠実になぞってみたところでは、なかなか悪くないと思いました。
むしろ、Biddle Moveによる手順よりも見た目はクリアーなのではないかと感じるくらいです。
やはりどんな作品でも、読んだだけでなく実際に手を動かしてみると、感じるものは違ってきますね。
さらに言えば、実際に観客の前で実演して初めて、正当な評価が下せるのかなと思います。
また最後に余談ですが、個人的な思い込みで、”Super Magic”ではポール・ハリスの代表作のほとんどが出揃ったような認識を勝手に持っていました。
しかし今回確認してみると、とくに有名と思えるのは冒頭で挙げた作品とリセットぐらいで、ビザー・ツイストもインターレースト・バニッシュも、スーパー・スインドルもソリッド・ディセプションも発表されたのは別の本なんですね。
これもちょっと意外でした。
リセットを解説した書籍等
すでに述べましたように、日本語でリセットを解説した文献は少ないです。
とくにポール・ハリスの原案をそのまま解説した本は、わたしの知る限りではありません。
バリエーションを解説した本としては、松田道弘著「松田道弘のカードマジック」と、荒木一郎著「テクニカルなカードマジック講座2」、それからロベルト・ジョビの「カードカレッジ 3巻」があります。
洋書では、すでに述べた”Super Magic”と”Art of Astonishment vol.1″に原案が解説されています。
DVDでは、Stars of Magicシリーズのポール・ハリス2巻で解説されています。
他にも日本語で解説されたDVDがありましたね。
マイケル・アマーの「イージー・トゥ・マスター・カードミラクルズ」第4巻に
収録されていました。
確認してみました。
確かにアマーの演じているものは、まさに原案の手順ですね。
それも、スーパーマジック掲載のオリジナルでなく、この記事で紹介したバージョンでした。
ご指摘いただきありがとうございます。
教えるためにこの手順を演じたのか、それともアマーが普段からこのリセットを演じているのか気になるところですね。
あの、種明かしはないんですか?実演のあとの文を全部読んだのですが、最後種明かしかぁーと思ったらコメントをどうぞってどういうことですか?みなさん気になりませんか?本当に残念でしたもう二度とあなたのものを見たくありません。そして、その下に書いてあったことですが、もっと調べてみました。先に書かれてしまいましたが、やはりマイケル・アマーが第4巻に収録されていました。教えるためにこの手順を演じたのか、それともアマーが普段からこのリセットを演じているのかそこが疑問だと思います。